理学療法士(PT)の年収は低いと議論になりやすいですが、本記事では20代〜30代に着目してPTの年収・給料が日本の中でどの位置にあるかを分析してみました。結果としては、女性PTは日本人女性の中で給料高めの傾向にありますが、男性PTは日本人男性の中で低めの傾向にあることが分かりました。
この記事で分かること
✔️ 女性PTは20代〜30代のみでなく、日本人女性の平均給料を上回り続ける傾向がある。
✔️ 男性PTは20代前半と60代後半以外、日本人男性の平均給料を下回る傾向がある。
✔️ 男性PTと女性PTが上記の結果になっている理由は日本における雇用形態が関係している。
女性理学療法士は全年代において女性日本人平均の給料を上回る
女性理学療法士は20〜30代に限らず、全年代において女性日本人平均の給料を上回っています。しかも、年齢を重ねるに従って徐々に年収差が広がっているのが特徴的ですね。上記グラフデータから、女性理学療法士の20代〜30代の平均年収を以下の表に示します。
※千単位の数字は四捨五入にて万単位に繰り上げ、切り捨てを行っています。
平均額面年収比較 女性理学療法士と日本人女性
年齢 | 女性理学療法士 | 日本人女性 |
---|---|---|
20〜24 | 312万円 | 248万円 |
25〜29 | 365万円 | 328万円 |
30〜34 | 376万円 | 321万円 |
35〜39 | 405万円 | 313万円 |
平均手取り年収比較 女性理学療法士と日本人女性
年齢 | 女性理学療法士 | 日本人女性 |
---|---|---|
20〜24 | 246万円 | 198万円 |
25〜29 | 278万円 | 259万円 |
30〜34 | 295万円 | 254万円 |
35〜39 | 317万円 | 247万円 |
上記の表の条件は
- 給与所得のみ
- 独身
- 「給与所得控除」「社会保険料控除」「基礎控除」のみ
としています。実際は、扶養家族や配偶者、お住まいの地域などによって異なりますが、今回は見やすく簡略化して数字を出しました。
女性理学療法士の年収が日本人女性の平均を上回り続ける理由
要因は以下の2つが考えられます。
- 正規雇用率が高い
- 医療系業界の年収が比較的高い
女性理学療法士の正規雇用率は高い
日本人女性の平均年収の推移は非正規雇用に大きく影響を受けていることが予想されます。非正規雇用の特徴として、昇給が無いことが多く、年齢と共に給料が上昇するグラフにならないのです。
日本人女性の非正規雇用率は令和2年度で54.4%です。
しかし、女性理学療法士は正社員率が非常に高く、年齢と共に給料が上昇しているのが見て分かります。
女性理学療法士の正社員率は平成22年度で85.4%とされています。
日本人女性の非正規雇用率は2000年代から55%付近でほとんど変わらずに推移しており、女性理学療法士の正社員率85.4%は非常に高い値を示しています。女性で最も正規雇用率の高い25〜29歳の期間でも68.8%とされていますからね。
参考:令和2年度版構成労働白書
女性理学療法士の業界別年収の高さ
特に20〜30代の女性の年収において、「医療・福祉」業界はかなり高い位置に属しています。20代であれば、年収業界ランキングのベスト3に食い込むほど高いです。30代に入ると「情報通信業」「学術研究、専門・技術サービス業」を中心に他の業種の年収が伸び「医療・福祉」業界は年収ランキングで真ん中あたりに落ち着きます。
しかし、女性の非正規雇用率が高いことは、日本において問題視され続けており、子育て等によって一度でも就業から離れてしまうと再び正規雇用に戻ることが難しいとされています。
つまり、理学療法士という専門資格を持って正規雇用に就ける確率を高めることができるのであれば、非常に力強いでしょう。データから、女性理学療法士は比較的正規雇用に就きやすく、年収を高い水準で保ちやすいのではないかと思われます。
女性理学療法士は勝ち組?
一時話題となった「女女格差」という言葉、その中で挙げられている話題の1つに女性の正規雇用者と非正規雇用者の年収格差があります。
歌代幸子さんが書いた「女女格差」はなぜ広がるのかという記事において示されている賃金格差のグラフと今回提示した女性理学療法士と日本人女性の賃金差のグラフは非常に似通っていることが見て取れるでしょう。
女性理学療法士は、正規雇用にて比較的安定してキャリア・賃金の向上を図れる環境にある可能性が高いのです。
※参考1:厚生労働省 令和2年賃金構造基本統計調査 結果の概況
※参考3:男女共同参画局 令和3年度版 第1節 就業 就業をめぐる状況
※参考4:男女共同参画局 平成26年度版 男女別・年齢階級別非正規雇用の割合の推移
男性理学療法士は20代前半以外は男性日本人平均の給料を下回る
男性理学療法士は、20代前半と60代後半のみ男性日本人平均を上回っています。そして、60歳という定年退職を迎える年に向かうに従って、徐々に年収差が大きくなる傾向があります。男性理学療法士の20代〜30代の年収と手取り予測を以下の表に示すのでご覧ください。
※千単位の数字は四捨五入にて万単位に繰り上げ、切り捨てを行っています。
平均額面年収比較 男性理学療法士と日本人男性
年齢 | 男性理学療法士 | 日本人男性 |
---|---|---|
20〜24 | 312万円 | 278万円 |
25〜29 | 373万円 | 403万円 |
30〜34 | 406万円 | 470万円 |
35〜39 | 455万円 | 529万円 |
平均手取り年収比較 男性理学療法士と日本人男性
年齢 | 男性理学療法士 | 日本人男性 |
---|---|---|
20〜24 | 246万円 | 220万円 |
25〜29 | 293万円 | 315万円 |
30〜34 | 318万円 | 366万円 |
35〜39 | 354万円 | 406万円 |
上記表の条件は、先ほどと同様に
- 給与所得のみ
- 独身
- 「給与所得控除」「社会保険料控除」「基礎控除」のみ
としています。扶養家族や配偶者、お住まいの地域などによって異なる点も同様です。
男性理学療法士の年収が日本人男性の平均を下回り続ける理由
要因としては以下の2つが考えられます。
- 役職数が少ない
- 昇給率が低い
ここには、女性と全く違う問題が含まれています。
そもそも、女性と違って男性の正規雇用率は高く、全体で77%を超えています。また25歳〜59歳、つまり一般的に大卒〜定年退職までの期間においては80%以上が正規雇用で働き続けます。
女性の場合は非正規雇用率が高く、正規雇用のような賃金上昇が見られないことが問題視されやすい環境にありますが、男性の場合は「正規雇用の中で賃金上昇をどうするか?」という点で問題が生じます。
理学療法士は役職数が少ない傾向にある
理学療法士は役職に就きにい職になります。なぜなら主に病院で働き、リハビリ科に所属するからです。まず、以下に一般企業の役職名を調べてまとめてみました。
- 一般社員
- 主任
- 係長
- 課長
- 次長
- 部長
- 本部長
- 常務取締役
- 専務取締役
- 代表取締役
※参考 カオナビ
かなり多くの役職がありますね。公務員においても役職が多くあり、10程度の役職があるとされています。
しかし「リハビリ科(部)」としての役職を考えてみますと
- 科長
- 副科長
- 主任
- 副主任
おそらくこれくらいでしょう。もっと多く役職数があると見積もっても、一般企業や公務員のような10以上の役職を作ることは難しいかと思います。
それぞれの役職に応じて給与階級や役職手当が変わるのであれば、当然、役職数が少ないことは昇給に影響すると考えられるでしょう。
理学療法士は昇給率が少ない
経団連が発表しているデータでは以下のようになっています。また、2022年度の日本企業の平均昇級率は2.0%になるとされています。
しかし、民間病院を調査した公益社団法人全日本病院協会のデータと比較すると以下の通りになり、多くの理学療法士が勤める病院勤務における昇給率は低く抑えられる傾向にあることが分かります。
全産業 | 民間病院 | |
昇給額平均 | 5176円 | 3588円 |
昇給率平均 | 1.9% | 1.3% |
役職手当のみでなく、民間病院勤務のコメディカルは昇給率の面でも不安が残る環境にあると言えるでしょう。
まとめ
結論として
- 女性PT(理学療法士)は20〜30代に限らず、全年代において女性日本人平均の給料を上回る。
- 男性PT(理学療法士)は20代前半と60代後半以外は男性日本人平均の給料を下回る。
ということが分かりました。
あくまで一般的な理学療法士に限った話ではありますが、データは事実を表しています。なので、本記事のデータを踏まえた上で、どのように自分の人生を生きるかを考えてみるのが良いのでは無いでしょうか。
多くの方は「理学療法士になった以上は理学療法士として働き続けなければならない。」と考えてしまうのかもしれませんが、人生においてそんな縛りは存在しません。
もちろん、理学療法士の魅力は素晴らしいものがあります。
しかし、自分の人生の操縦者は自分自身ですから、事実は事実と受け止めた上で、自らの人生の舵取りをするのが良いと思います。
理学療法士として良いスタンスを取りに行くのか?はたまた違う領域に挑戦するのか?自らの選択によって未来はさまざまな分岐が訪れます。