理学療法士協会に入会しないという選択をする方は、PT(理学療法士)の中では少数派です。PTの理学療法士協会の入会率・組織率は、他のリハビリ職などの職能団体と比較して非常に高いことが影響しています。
理学療法士協会に入らなくてもPTとして働くことは可能ですが、キャリアを形成する上で協会への所属が有利に働くこともあります。
他の職能団体と比較して年会費の高い理学療法士協会ですが、自らの将来像をしっかりとイメージして行動を選択することが大切になるでしょう。
✔️ 理学療法士協会に入らないPTの割合は約20%
✔️ 理学療法士協会の年会費は高い
✔️ 理学療法士協会に入らなくてもPTとしては働ける
✔️ PTとしてキャリアアップしたいなら理学療法士協会に入った方が有利
✔️ 顧客リストについて考える必要がある
理学療法士協会に入会しない人はどれくらいいる?
「理学療法士協会に入るべきか?入らないべきか?」「一体どれくらいの割合の人が理学療法士協会に入るのだろう?」
令和4年はスタグフレーションに見舞われている時代ですから、高い年会費などを確認して入会するかどうか悩む方は少なからずいるでしょう。
実は、理学療法士協会に入会していない人は2割程度です。理学療法士協会の組織率は他のコメディカルなどと比較して非常に高い値を示しており、周りの理学療法士を見渡せばかなり多くの比率で協会に入っていると考えて良いでしょう。
つまり、裏を返せば「理学療法士協会に入会しない人」はマイノリティ(少数派)であると言えます。
少し古い情報になりますが、平成27年における理学療法士協会の入会率は89.5%であり、組織率は79.4%となっていますから、新人理学療法士の約9割、理学療法士全体の8割が理学療法士協会に入会しているということになります。
理学療法士協会に入会していない人はマイノリティだと思って間違い無いでしょう。
理学療法士協会の入会率・組織率は非常に高い|他の職種との比較
理学療法士協会に入らない人はマイノリティである。と前章で言い切りましたが、それは理学療法士協会の入会率・組織率の高さが影響しています。他の職種においては協会に入っていないことがマイノリティとみなされない程に入会率や組織率が低い状況が見て取れます。
職能団体名 | 組織率 |
---|---|
日本理学療法士協会 | 79.4% (平成27年) |
日本作業療法士協会 | 69.4% (平成26年) |
日本言語聴覚士協会 | 54.7% (平成31年) |
日本医師会 | 50%強 (令和3年) |
日本看護協会 | 約50% (令和3年) |
日本社会福祉士会 | 18.4% (平成30年) |
日本介護福祉士会 | 約5% (平成30年) |
組織率については年を追った情報が得られず、比較している年度が異なる点についてはご容赦ください。しかし、比較している年度は違えども理学療法士協会の組織率の高さは一目瞭然ではないでしょうか。
たとえば、介護福祉士を例に挙げて考えてみましょう。「日本介護福祉士会に入会していない人」はマイノリティと言えるでしょうか?
答えはノーです。むしろ日本介護福祉会に入会している人がマイノリティになり、入会していない人がマジョリティ(多数派)になっているのです。
「みんなが理学療法士協会に入っているから、私も入らなきゃ…。」という状況は理学療法士特有の環境であると言って良いでしょう。
看護師や医師ですら5割ですからね。けっして「みんなが入っている」と言える状況ではありません。
理学療法士は組織率の高い理学療法士協会のある環境で生きているということを頭の片隅で理解しておくと良いでしょう。理学療法士協会の入会について悩むという状況は、理学療法士独特の環境が影響している可能性もあるのです。
理学療法士協会の年会費は高い|他の職種との比較
理学療法士協会の年会費は各都道府県によって異なりますので、今回は分かりやすく「東京都」を例にして各職能団体における年会費を比較してみました。(医師は年収や会費のレベルが違いすぎるので除外しています。)
年会費は入会費を除いた、2年目以降にかかる費用の数字で比較しています。
職能団体名 | 年会費 |
---|---|
東京都理学療法士協会 | 2万円 |
東京都作業療法士協会 | 8000円(+1万2000円) |
東京都言語聴覚士協会 | 3000円(+5000〜1万3000円) |
東京都看護協会 | 1万5000円 |
東京都社会福祉士会 | 1万5000円 |
東京都介護福祉士会 | 8000円 |
比較してみると、理学療法士協会の年会費が高い傾向にあることが分かります。
(東京都作業療法士協会と東京都言語聴覚士協会においては「日本作業療法士協会・日本言語聴覚士協会」の会費の記述はありませんでしたので、括弧付けの部分で+〜円と表記しました。東京都理学療法士協会においては「日本理学療法士協会費1万円+東京都理学療法士協会費1万円」と記載がありますから、その辺りは影響していると思います。)
職能団体の活動は幅広く、一概に金額だけで比較できるものではありません。
しかし、純粋に年会費という数字だけで比較すると上記のような結果になったことは事実です。各都道府県によって多少の違いはありますが、リハビリ職のみで比較してみればトップレベルに高いことが予想できるでしょう。
理学療法士協会に入らなくても仕事はできる|キャリア形成に影響する可能性
ただ単に理学療法士として働くだけなら、理学療法士協会に入らなくても大丈夫です。少数派ではありますが、協会に入らずに理学療法士として働く方々はいます。
しかし、キャリア形成を考えた時、理学療法士協会に入った方が良いケースは存在しますので、自らの将来について考えた上で、しっかりと行動を選択することをオススメします。
協会に入らなくても理学療法士として働ける|取得できる単位は変わらない
理学療法士は7割が病院に、約1割が医療機関に勤めているとされていることから、8割の理学療法士は医療保険の診療報酬・疾患別リハビリテーション点数で単位を稼ぐ仕事をしています。
リハビリ職であれば以下の表を目にしたことはあるでしょう。
それでは、上記の疾患別リハビリテーション点数は「登録」「認定」「専門」などの資格によって変わることが示されているでしょうか?
答はNOです。リハビリ職であれば、登録や認定などの資格や経験年数を問わず、新人もベテランも同じ疾患別リハビリテーション点数を取得できます。
つまり、理学療法士協会に所属して上位資格へのステップアップをしても、疾患別リハビリテーション加算を取得する環境において理学療法士のお金の稼ぎ方は変わらないのです。
もちろん、理学療法士の仕事は単位の取得だけではありません。講習会やマネジメント、教育などを含めて多岐に渡ります。その上で上位資格が活きるタイミングがあることは間違い無いでしょう。
ただし、理学療法士協会に入らなくても、疾患別リハビリテーションの単位を取得するという理学療法士の一般的な働き方は可能だということです。
キャリアアップを目指すなら理学療法士協会に所属した方が有利
上記の章を読んで「理学療法士協会に入らなくても普通に働けるなら入らなくていいや。」と考えてしまう方もいるかもしれません。しかし、理学療法士としてキャリアアップを目指すのであれば安易に決めてしまうと後悔する可能性があります。
キャリアとは「仕事の経歴や経験」を指します。
理学療法士としてのキャリアアップをするなら、より専門的なスキルを身につけいくことが大切になります。そして、もし理学療法士としてのキャリアアップによる給料向上を望むなら、昇進や転職をする必要があるでしょう。
たとえば
- 管理や専門領域の知識を身につけて管理職に就き、管理職手当を得る
- 上位資格を取得して、より給料の高い病院に転職する
これらの方法が考えられます。
他にも研究職やケアマネジャー、教職への転向という方法も考えられますが、これらは理学療法士としてのキャリアアップから内容が外れてしまいますので除外します。
それでは「管理職へのステップアップ」や「より給料の高い職場への転職」は疾患別リハビリテーション単位数と関連があるのでしょうか?おそらく無いと考えられるでしょう。
もし、疾患別リハビリテーション単位数がステップアップに関わるのなら「どれだけ単位が取れるか」が勝負になってしまいますからね。
理学療法士としてキャリアアップを目指すなら「目指している理学療法士としてのポジション」に対して「必要な実績やスキル」を積み重ねていく必要があります。
「必要な実績やスキル」において分かりやすいのは上位資格の取得ですが、それのみとは限りません。
たとえば
- 論文発表の実績
- 現場での立ち回り
- 他職種からの信頼度
などが影響することもあるでしょう。
以上のことを考えてみると、理学療法士協会に入っていた方が理学療法士としてのキャリアアップに良い影響を与えそうだと予想できますね。
さらに言えば、上司が理学療法士協会に所属してスキルアップを目指している方であった場合、当然ながら管理やリーダーを任せる職員を選ぶ時に、上司に共感できる人を選びたくなるのは自然なことです。上司が理学療法士協会に所属していないケースもありますけどね…。
(ちなみに、稀ではありますが「認定資格手当」が出る所もあるようなので、要チェックかもしれません。)
一般リハビリ職の真の顧客は上司と勤め先|顧客リストを増やすことが大切
「リハビリ職の顧客?私にとってのお客さんなら患者さんではないの?」と思うかもしれません。もちろん、それは間違いではありません。
しかし、初回の患者さんはリハビリ職の名前を確認してリハビリをしに来るでしょうか?おそらく、病院や診療所の名前を確認して受診し、その後にリハビリが始まるはずです。
つまり、患者さんは病院や診療所の顧客なのです。個人の職員と契約してお金が発生する仕組みにはなっていませんからね。
リハビリ職は、病院や診療所の一部の機能を果たしているのです。リハビリ職は、病院や診療所に専門職としての技術と労働力を提供している立場だと言えるでしょう。
そして、リハビリ職の「専門職や労働力としての評価」をするのは「上司・勤め先」です。
顧客である「上司・勤め先」から「あなたが欲しい!」と言われる人材になればキャリアアップの道や給料アップが望めるということになります。
以上のように考えてみると「一般リハビリ職の顧客が上司と勤め先なら、顧客のリストは増やしようが無い。」「上司や勤め先に媚びろということ?」と感じる方もいらっしゃるかと思います。
上司や勤め先に好まれる人材になることは重要ですが、最も重要なポイントは「あなたが欲しい!」と言われる人材になることです。これは現職場という狭い領域に限定された話ではありません。
本記事では特に紹介してきた理学療法士としてのキャリアアップについて考えてみると、理学療法士としての専門職力や管理能力が高かったりすると「欲しい人材」として認識されやすいですから、多くの病院や診療所などからオファーされやすくなる可能性が高くなります。
例として、以下に「理学療法士の顧客リストの強化方法」と「顧客リスト強化→キャリアアップ」のルートを考えてみました。
「将来像:心臓リハビリテーションの現場で働きたい。ある程度の給料はもらいたい。」⇨「目標設定:心臓リハビリテーションの管理職やリーダー職になりたい。」⇨「方法①:心臓リハビリテーション指導士の資格を取得」「方法②:転職先として、新たに心臓リハビリテーションを開始する病院を目指す。」「方法③:転職活動をする」⇨「結果(顧客リストの強化):心臓リハビリテーション指導士の有資格者は引く手数多の状態」⇨「結果(キャリアアップ):新たに心臓リハビリテーション部門を立ち上げる病院の中で最も条件の良い場所を選びんで転職。管理職として働く運びとなった。」
というパターンが1つ考えられるでしょう。心臓リハビリテーション指導士を認定理学療法士等に変えてみるのもアリですね。
他にも、理学療法士以外のスキルで求められる人材になる方法もありますから、どのように「自らのキャリア」を定めるかを考えて行動していくことが大切になるでしょう。
なんにせよ「真の顧客」を意識して行動することが人生のキャリアを考える上で大切になることは間違いありません。そのためには理学療法士協会に所属することが重要な要素になる場合もありますから「自分の将来像」をよくよく考えて決めるようにしましょう。
参考資料
※医療従事者の需給に関する検討会 第1回 理学療法士・作業療法士需給分科会 資料5
※医療重視者の需給に関する検討会 第1回 理学療法士・作業療法士需給分科会 資料6
※日本言語聴覚士協会は入会すべき?入会のメリットとデメリット いちばんやさしい言語聴覚士のブログ
※介護福祉士の職能団体 介護福祉士の現状と展望 tasucare
※日本社会福祉士会・都道府県社会福祉会の入会メリット・デメリット しゃふくさん