理学療法士の平均年収は低いのではないか?日本全体の平均年収で比較すると、どこらへんの位置にあるのか?という疑問について本記事では解説します。
理学療法士全体の平均年収は418.9万円。そして、年収中央値は351万円とされています。中央値のデータについては、細かな情報が見当たらないため、ここでは平均年収について主に解説し、中央値については後半に考察を載せます。
ほとんどの記事では「理学療法士全体」を対象としてデータが書かれていますが、「男性」と「女性」の理学療法士では、全く平均年収の高低のイメージが変わるのです。
実は「男性理学療法士の平均年収」は低く、「女性理学療法士の平均年収」は高いことが、日本人の平均年収データと比較する中で見えてきました。
理学療法士全体の平均年収は約420万円|日本人の平均年収の中では低い値
平均年収 理学療法士と日本人全体の比較
2021年(令和3年)の理学療法士の平均年収は418.9万円だとされています。日本人平均年収には届きません。また、2021年の医療・介護職の平均年収ランキングの中でも真ん中より少し低い値にあたるようです(20位中の11位くらい)。
理学療法士の平均年収が低い理由については「平均年齢が若い」ことが理由だとされています。2020年の理学療法士の平均年齢は33.9歳、日本人の平均年齢は48.4歳なので結構違いますからね。(※参考 賃金構造基本統計調査 CIA)
しかし、そんな情報を耳にすると「年齢が上がったら理学療法士も平均年収に届くのかなぁ」と期待してしまうのですが、実際はどうなんでしょうか?以下のグラフで確認してみましょう。
年齢毎の平均年収 理学療法士と日本人全体の比較
「やっぱり理学療法士の平均年齢が若いだけで、実際は日本人平均を上回ってるじゃん!」と思いますよね。理学療法士は30〜34歳の部分の人口が多く、日本人全体は45〜49歳の部分の人口が多いから平均年収に差がついているのだと。
しかし、今後は男性と女性の年収の差を比べてみましょう。意外な事実が分かります。
実は女性理学療法士の平均年収は高い傾向にある
年齢毎の平均年収 女性理学療法士と日本人全体の比較
女性理学療法士の年収平均は常に女性日本人の年収平均を上回っていることが分かりました。さきほどの日本人全体の年収平均は男女を総合して計算したものです。この表を見れば明らかですが、理学療法士の年収平均の底上げをしているのは女性理学療法士のデータだと考えられるでしょう。
「いや、日本人女性の平均年収のデータ低すぎるのはどうなの?」という意見も聞かれそうですので、女性の平均年収が低い理由について調べてみました。
- 非正規雇用の方が多い
- 非正規雇用だと昇給しにくい
- 育児や出産の休職が影響して昇給しにくい
- 管理職になる方が少ない
などが挙げられるようです。
確かにグラフを確認してみると、女性日本人平均のデータは一定の年齢から伸び悩んでいます。しかし、女性理学療法士平均のデータは上昇し続ける傾向が見てとれます。
データからは昇給のある環境で働いている女性理学療法士が多い可能性が示唆されるでしょう。少々古いデータですが、平成22年の「女性理学療法士就労環境調査報告書」のアンケートでは、なんと常勤職員(正社員)が89.5%に達していました。(※調査対象は「協会の女性会員を乱数法にて2500名抽出」している。)
一方、日本人女性の正社員率は約50%とされているため、女性理学療法士の正社員率はかなり高いと言えます。なので、女性理学療法士の定期昇給が影響して徐々にデータに差が見られているのではないかと予測できるでしょう。また、業界別の女性平均年収を見てみると「医療・福祉」の業界は14位中の4位にラインクインしています。
「平均年収の高い業界×正社員率の高さ」これらが、女性理学療法士年収の高い要因になっているのではないでしょうか。
男性理学療法の平均年収は低い傾向にある
年齢毎の平均年収 男性理学療法士と日本人全体の比較
男性理学療法士の年収平均は20代と60代の一部を除いて男性日本人の平均年収を下回っていることが見て取れますね。特徴的なのは、60歳まで徐々に引き離されていく年収差です。その理由は「役職」と「昇給」にあると考えられます。
理学療法士は役職に就きにくく、昇給率が低めの傾向にあることによって男性日本人の平均年収を下回ってしまう可能性が高いのです。以下に一般企業の役職名を調べてまとめてみました。
- 一般社員
- 主任
- 係長
- 課長
- 次長
- 部長
- 本部長
- 常務取締役
- 専務取締役
- 代表取締役
※参考 カオナビ
かなり多くの役職がありますね。他にも公務員においても役職が多くあり、10程度の役職があるとされています。
しかし、理学療法士においては約8割の方が病院に属している(※公益社団法人日本理学療法士協会 統計情報より)ことから「リハビリ科(部)」に配属されている人が多いのではないでしょうか。
「リハビリ科(部)」としての役職を考えてみますと
- 科長
- 副科長
- 主任
- 副主任
くらいでしょうか?もっと多く役職数を見積もっても一般企業や公務員のような10以上の役職を作ることは難しいでしょう。
もちろん、リハビリ科をいう枠を飛び越えて〜部の部長というような管理職として働く方もいるのかもしれませんが、医療業界は各専門職領域で「看護科」「リハビリ科」のように縦割りにされていることが多く、その枠を飛び越える機会は多くないと予想されます。
理学療法士が役職に就く機会は少なくなりやすく、したがって役職手当を貰える方も少なくなるのでしょう。
次に、昇給について考えてみます。実は病院の賃上げにおいて医師以外の昇給平均は一般企業平均より少ないのです。
全産業 | 民間病院 | |
昇給額平均 | 5176円 | 3588円 |
昇給率平均 | 1.9% | 1.3% |
このデータは2016年のものですが、2019年には全産業の昇給学平均が5997円となっています。約8割が病院に勤める理学療法士の昇給額は、一般企業平均と比較して低くなりやすい傾向にあることがデータから分かります。
「役職や昇給の差については男性も女性も一緒に影響を受けているんじゃないの?」という意見については、その通りだと思います。
しかし、以下の要素が大きく関連すると考えられます。
- 日本において役職に就くのは80〜90%が男性
- 非正規雇用労働者は「女性約5割・男性約2割」
- 非正規雇用労働者は昇給しにくい
- 非正規雇用労働者は基本的に昇進がない
- 非正規雇用はボーナスが払われにくい
※参考 賃金構造基本統計調査 NHK政治マガジン 内閣府男女共同参画局
つまり、多くの日本人男性労働者は正社員であり「役職」と「昇給」の関連する状態で働いているのですから、非正規雇用労働者の多い女性の労働環境と異なるのです。(当然、日本における男女の労働環境の違いには問題があるでしょう。)
「役職に就ける人の少なさ×昇給額(率)の少なさ」これらが、男性理学療法士年収の低い要因になっているのではないでしょうか。
ちなみに、業界別の男性平均年収を見てみると「医療・福祉」の業界は14位中の6位にラインクインしているのですが、上位の「電気・ガス等のインフラ系」業界や「金融や保険」業界などの平均年収が非常に高いことも影響しているかもしれません。
理学療法士の平均年収418.9万円に対して年収中央値が351万円の理由
上記は厚生労働省が示している1世帯当たりの平均所得金額と中央値の値です。
見て分かるとおり、平均所得に対して中央値は低くなっています。これは、理学療法士の平均年収と中央値の関係性と同じと捉えられるでしょう。
なぜ、このようになるのかというと、一部の高年収層が外れ値になってしまい、平均値がそれに引き上げられてしまうからです。
つまり、低い年収の人が実際は多い状態であっても、たった数人の「年収億超え」みたいな人がいるだけで平均値はズレてしまうのです。
理学療法士の場合、年齢の分布図が若年層の方が多い傾向にあるため一概に日本の平均所得データと比べることはできませんが、普通に考えれば若年層がボリュームのあるゾーンになるのだから、中央値は下に引っ張られそうなものです。
しかし、ほとんど上記の図と同じようなデータになっていると予想されます。
- 日本人世帯所得中央値:平均値の79.1%
- 理学療法士の年収中央値:平均値の83.8%
その差は4.7%です。
つまり、一部の高所得層が外れ値を出しており、理学療法士の平均年収の値を引き上げている可能性があるでしょう。
少し悲しく聞こえるかもしれませんが、逆に捉えれば「理学療法士には相当な高年収者がいる」ということになります。
一般的な理学療法士の年収は決して高いとは言えませんが、工夫をすれば「外れ値の高年収」を目指せる可能性があることを示しているとも捉えられますね。
まとめ
一概に「理学療法士の年収は低い」や「平均年齢が若いことによって理学療法士の年収平均が低い」と言えないことが分かりました。
女性理学療法士であれば「平均年収の高い業界×正社員率の高さ」から日本人女性の平均年収を上回る年収を期待できるでしょう。
男性理学療法士であれば「役職に就ける人の少なさ×昇給額(率)の少なさ」から日本人男性の平均年収を下回る年収に収まりやすい傾向にあります。
しかし、これは一般的な理学療法士という職種において数字を調べ、考察してみたものであるため、働き方によっては大きな差が出る可能性に注意してください。たとえば、大学教授などに就任できれば平均年収は1000万円クラスになることもあります。
「平均」という数字を当てにしすぎないようにしましょう。
※1.賃金構造基本統計調査のデータは、理学療法士のみでなく作業療法士や言語聴覚士のデータが合計されている年や管理職が合計されている年があるなどして変動があります。
※2.民間病院の昇級率が全産業を上回っていた時期もあります。全産業における昇級率の変動は民間病院に比べると大きく、2013年以降は下回り続けているようです。詳しくは民間病院の賃金引上げの実態をご参照ください。