理学療法士はやめとけと言われる理由について解説している記事は多数ありますが、ほとんどの記事は他職種との比較を行なっていません。なので、本記事では他職種と比較しながら考察をしてみました。
理学療法士がやめとけと言われるほどヤバいポジションなのかどうかは、他の職種と比較してみないと分かりません。
この記事では
- 看護師
- 薬剤師
- 介護福祉士
と比較してみました。
- 給料については理学療法士のみが上昇トレンドに乗れていないが低下もしていない
- 理学療法士と薬剤師は供給過多であり「質」を理由に計画的人員養成が図られる可能性
- 看護師と介護福祉士は供給不足であり、政府は人材確保に向けて補助金などを投入している
- 理学療法士は他職種と比較して厳しい状況に見える
- 理学療法士個人に焦点を当てれば将来性は低くない
理学療法士がやめとけと言われる理由は他職種との比較で分かる
今回は、主に厚生労働省の対応や給料に着目して比較してみました。
結論として、厚生労働省は供給不足と予想される職種には多くの補助金を投入し、待遇を改善させて人数確保を図る。供給過多が予想される職種には「資質の向上」という理由を挙げて、専門職養成に制限をかける。
といった風潮が感じ取ることができました。
働き方については、理学療法士は夜勤が無いことが特徴的であり、その他の職種は働く場所によっては夜勤もあり得るでしょう。
夜勤の有無が給料にも影響していることを踏まえた上でご覧ください。
理学療法士の置かれている社会的な状況の特徴
上記は理学療法士を含む、医療系職種の給与水準です。確認すると、理学療法士のみが数値として100を切り、平成7年と比較して平成28年の給与水準が若干低下しています。
理学療法士がやめとけとか、オワコンと言われてしまう大きな理由として「給与が低い」ことが挙げられるのは事実です。というより他の職種のように「給与が上昇トレンドに乗っていない」ことがネガティブ要因になっているのでしょう。
「給与が低い」「給与が上昇トレンドに乗っていない」理由として「理学療法士は若年層が多く、平均年齢が低いので給与水準が上がらない」という反論が良く挙げられます。
理学療法士の平均年齢は33.9歳とされており、確かに若年層が厚い特徴を持ちます。
しかし、それを理由とするには他の職種と比較して考える必要があるでしょう。新人が増えているのが理学療法士のみに限っているのであれば上記の反論は成り立ちますが、比較してみないことには分かりません。
理学療法士がオワコンと言われてしまう要因の2つ目は「理学療法士の供給過多」の問題があります。
厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会・理学療法士・作業療法士受給分科会」によると
「今回(平成31年)の理学療法士・作業療法士の需給推計(案)においては、PT・OTの供給 数は、現時点においては、需要数を上回っており、2040年頃には供給数が需要数 の約1.5倍となる結果となった。」
引用:厚生労働省 医療従事者の需給に関する検討会・理学療法士・作業療法士受給分科会
と報告されており、上記の内容も理学療法士の大きな不安要素となっています。
しかし、供給過多とされているのは理学療法士だけなのでしょうか?
他の職種と比較してみることで理学療法士の立ち位置が見えてきます。
理学療法士と看護師の比較
上記の図は看護師の人数の推移です。
以下に理学療法士の人数の推移を示します。
理学療法士も看護師も似たような人数の上昇傾向が見て取れます。
平均年齢について、看護師のデータは明らかなものはありませんが、おおよそ40代前半であろうとされています。
ただし、看護師の人数は理学療法士と同じように伸びていることから、新人が増えていることは考えられるでしょう。つまり、経験年数0の新人看護師が増えているのであれば、平均給料は理学療法士と同様とは言わないまでも上昇傾向にはならないことが予想されます。
しかし、看護師の平均給料は年々上昇していることがグラフによって示されています。
ここから考えられることは「理学療法士は新人が増えているから平均給料が上がらない」という予想がキレイに当てはまらないということでしょう。
さらに、政府の方針の違いが給料に影響することも考えられます。
理学療法士と看護師の「厚生労働省 需給に関する検討会」の示している方針に違いを見てみましょう。
まずは理学療法士(作業療法士)に対する方針は以下のように示されています。
理学療法士・作業療法士需給分科会の開催回数は少ないため、情報が多くありません。ただし、上記のように方針は明記されており、理学療法士と作業療法士の数をどちらかというと減らしたいという意図が感じられる内容になっています。
次は、供給不足になると予想される看護師に対する方針は以下のように示されており、理学療法士とかなり違います。
理学療法士・作業療法士需給分科会の方針の文量との違いに驚きますが、要約すると以下のようになります。
- 新人看護師の養成と教育に力を入れる
- 看護師の復職支援を行う
- 看護師の労働環境の改善を行う
分かりやすく実施されているのは報酬アップです。令和4年より、労働環境改善のための診療報酬が作られました。「看護職員処遇改善評価料」が新設され「看護職員について、賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として、収入を3%(月額1万2000円)程度引き上げる診療報酬上の対応」が行われることになりました。
「看護職員処遇改善評価料」については、理学療法士などのコメディカルも含めて良いことになっていますが、重要な点は以下の算定要件です。
当該医療機関に勤務する看護職員等(保健師、助産師、看護師、准看護師(非常勤職員を含む)をさす、以下同)に対して、【看護職員処遇改善評価料】算定額に相当する賃金(基本給、手当、賞与等(退職手当を除く)を含む。以下同)の改善を行う
賃金改善は、基本給、手当、賞与等のうち対象を特定して行うとともに、特定した項目以外の賃金項目(業績等に応じて変動するものを除く。)の水準を低下させてはならない
引用:Gem Med 【看護職員処遇改善評価料】を新設し、コロナ対応病院に勤務する看護職員等の賃金引き上げを推進—中医協総会(1)
上記の内容から、看護職員処遇改善評価料を算定するのであれば、看護職員の改善を行うことが確定します。
それに対して、看護職員以外の対象者については以下のように記載されています。
賃金の改善措置の対象者は、当該保険医療機関に勤務する看護職員等のほか、視能訓練士、言語聴覚士、義肢装具士、歯科衛生士、歯科技工士、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、管理栄養士、栄養士、精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士、保育士、救急救命士、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師、公認心理師、その他医療サービスを患者に直接提供している職種も対象に加えることができる(補助金と同様)
引用:Gem Med 【看護職員処遇改善評価料】を新設し、コロナ対応病院に勤務する看護職員等の賃金引き上げを推進—中医協総会(1)
理学療法士は対象に含まれますが「対象に加えることができる」という記載内容になっています。つまり「対象に加えなくても良い」と理解できます。
看護師に対して力を入れている加算であることが分かるでしょう。これは、専門職間の政府の対策の差と捉えられます。
さらに「看護職員確保対策の推進」については以下のような対策が施されている例があるので見てみましょう。
上記の図は山口県のものですが、他の県も多くの看護職員確保対策を打ち出しています。
実際、どこまで看護師に還元されているのかは分かりませんが、看護師の労働環境の改善に対して相当な金額が投入されていることは間違いありません。
上記のような支援策によって、部分的であったとしても看護師の待遇が守られ、給料面でも上昇のトレンドを維持している可能性が考えられるでしょう。
それに対し、理学療法士確保に対する支援事業というのは特に打ち出されていませんから、検索しても内容が出てきませんでした…。また、理学療法士に対する支援策については「奨学金に関する補助」以外なかなか情報が出てきません。
(どなたか情報を知っている方は「お問い合わせ」などを通して教えて下さると嬉しいです!)
理学療法士と薬剤師の比較
実は、薬剤師も理学療法士と同様に「供給過多」になると予想されている職種になります。それは、厚生労働省の薬剤師の需給調査で以下のように示されています。
理学療法士・作業療法士の需要と供給のグラフと同様に供給が上回ることが示されており、さらには対策方法として「資質の向上」が挙げられているのも同じです。
理学療法士・作業療法士の供給過多への対策は「質」に着眼して計画的な人員養成をすること。
薬剤師の供給過多への対策は「業務の充実と資質の向上」です。理学療法士等のように養成にまで言及してはいませんが、着目点は似ています。
供給過多になるという厚生労働省の予測は同じ職種であっても、以下のように給料のトレンドは異なります。
反論としては「薬剤師と理学療法士の供給過多に対する言及のされた時期が違う」という内容が予想できますが、実は薬剤師の供給過多は平成14年から予想されていました。
ただし、薬剤師の平均年齢は46歳とされているので、理学療法士と離れていることは考慮しなければなりません。
理学療法士と介護士・介護福祉士の比較
介護士といえば、給料が低く、いわゆる3Kで辛い仕事だというイメージが日本に定着しているものかと思いますが、実は給料は上昇トレンドにあります。
平均年収でみれば、あまり高くありませんが政府による給料の改善策が施されているため、年々給料は上昇傾向にあるのです。
たとえば、以下のような政策が施されています。
- 介護職処遇改善加算
- 特定処遇改善加算
- 介護職等ベースアップ等支援加算
上記の支援によって、介護職の給与面の待遇は改善傾向にあります。特定処遇改善加算は2019年、介護職等ベースアップ等支援加算については2022年から新設されたものであり、今後もさらなる給与改善の施作が期待できるでしょう。
さらに「年収中央値」をみてみましょう。
平均年収.jpによると理学療法士の年収中央値は351万円、介護福祉士の年収中央値は383万円とされています。
それに対し、同サイトで平均年収を調べてみると、理学療法士の平均年収は471万円、介護福祉士の平均年収330万円とされています。
平均というのは、外れ値が入ってしまうと一気に現実的な数字からかけ離れてしまうことは周知の事実だと思いますが、中央値はそういった外れ値に影響されません。
真ん中の年収を知りたいなら中央値を使うのが一般的です。そして、介護福祉士の方は極端に低い値が平均年収を下に引っ張っており、理学療法士は逆に極端に高い値が平均年収を上に引っ張っていることが考えられるでしょう。
いわゆる「ふつうの理学療法士」と「ふつうの介護福祉士」を比較したときには介護福祉士の方が高年収ということになります。
ただし、介護福祉士の平均年齢は40代前半なので、その部分の差は考慮しなければいけません。
理学療法士の場合、高年収の外れ値があると予想されるため、政府の支援策や昇給を待つよりも転職して高年収を狙う方が給料を上げやすいかもしれませんね。
理学療法士の給料は下がっていない|過去20年変わらない給与水準
理学療法士の給料については不安な情報が多い状況ではありますが、過去の給料水準を確認しても理学療法士の年収は下がっている訳ではありません。
過去20年ほど横ばいであり、給料の安定性は決して低くないと言えるでしょう。ただし、政策の状況から見ても供給が不足するとされる職種のように給料が上昇トレンドになることは考えにくいです。
給料の推移については以下の記事をご参考ください。
理学療法士個人の将来性は低くない|自己研鑽の土台が作れる
他職種と比較してみた結果、理学療法士を取り巻く環境は厳しいと言わざるを得ません。しかし、理学療法士の学ぶ環境や意識には非常に価値があります。
年収の高い人ほど学んでいることがビジネスマン向け雑誌プレジデントの調査結果で分かっており、理学療法士個人に焦点を当てれば、年収を上げられる可能性を秘めているでしょう。
夜勤が無いことは理学療法士の特徴であり、自己の能力を高める環境を作りやすいのもメリットかもしれませんね。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
参考2:厚生労働省看護職員需給分科会
参考3:看護師の男女比や平均年齢、もっとも多い就業場所はどこ?
参考4:第4章 令和4年度の看護職員確保対策事業 – 山口県
参考5:Gem Med 【看護職員処遇改善評価料】を新設し、コロナ対応病院に勤務する看護職員等の賃金引き上げを推進—中医協総会(1)
参考6:薬剤師の人数・年齢・男女比率から考える働き方・職場環境 ジョブメドレー
参考7:介護職の給料は上がる?2022年の月額9000円アップ&月収・年収の現状を解説 カイゴジョブ